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岡山地方裁判所 平成元年(行ウ)8号 判決 1994年4月27日

原告

手島超(X1)

横山豊(X2)

道廣進一(X3)

徳永訓三(X4)

右四名訴訟代理人弁護士

木山潔

被告

鴨方町土地開発公社(Y1)

右代表者理事

田主智彦

被告

大西恒夫(Y2)

右二名訴訟代理人弁護士

片山邦宏

被告

(岡山県西南水道企業団企業長) 渡邊嘉久(Y3)

右訴訟代理人弁護士

河原太郎

理由

一  請求原因1について

原告らと被告公社、同大西との間では争いがなく、原告らと被告渡邊との間では請求原因1(一)ないし(三)は争いがなく、同(四)は当裁判所に顕著な事案である。

二  請求原因2について

争いがない。

三  請求原因3について

1  〔証拠略〕によれば以下の事実が認められる。

(一)  本件企業団は、昭和六二年当時給水能力日量三万トンの処理能力を有する浄水場(岡山県笠間市絵師)を一か所有していた。同企業団は、笠岡市、鴨方町、寄島町、里庄町に水道水を供給していたが、水道水の供給が特に夏季には処理能力の限界に近く、安定供給が危ぶまれていた。

そのため本件企業団は、さらに給水能力日量三万トンの浄水場を建設することとし、右浄水場用地として里庄町大字美里の津江地区での買収交渉を行い、一坪当たり七万円の単価の提案をしたが、地元住民からの買収単価の引き上げや代替地の要求が強く、右交渉は失敗した。

本件企業団は昭和六二年二月ころ、鴨方町をとおして被告公社に対し、浄水場用地を取得造成のうえ売却してほしい旨申し出た。被告公社は、本件企業団から提示された浄水場用地の有効面積が一万七〇〇〇ないし二万平方メートルであることや笠岡共用導水路(高梁川から笠岡干拓地までの水源確保のための水路)からあまり離れていないほうがよいということから、鴨方町惣良田地区に右浄水場用地を取得造成する計画を立てた。惣良田地区は、起伏の多い丘陵地であり、山林が半分以上を占めていた。

被告公社は、惣良田地区住民との交渉を始めるとともに、用地買収の前提となる地形測量の了解を取り、昭和六二年六月惣良田地区の地形測量を中電技術コンサルタント株式会社(以下「中電技術」という。)に発注した。委託費は二五〇万円であるが、右金額中浄水場用地分一一〇万円は、測量図面をもとに本件浄水場用地部分や町が将来買い取る部分の面積等を基に被告公社において算出した金額である。

惣良田地区の住民からは、被告公社が本件浄水場用地として考えていた部分だけでは地区の人口部分の開発に終わってしまう可能性があるので、惣良田地区全体(約一〇ヘクタール)を買収し開発してほしいこと、右開発地の周辺には道路(幅員三メートルの道路を要望していた。)や公共施設を整備すること、被告公社が本件企業団に売却する価格は有効面積一坪当たり八万円以上とすること(地元住民からは、前記津江地区で提示された一坪七万円に造成費一坪当たり一万円を加えた額という説明がされている。)等が買収に応じる条件として出された。

被告公社は、本件浄水場用地分のみの買収を地元に打診したが、惣良田地区全体の買収の要望が強かったことから、鴨方町と相談し、惣良田地区全体を被告公社が買収し、本件浄水場用地として本件企業団に売却した残りの土地は、町が将来運動場等にすること(鴨方町では被告公社設立当初から、惣良田地区を工場用地なり運動場として開発する構想を持っていた。)とした。

買収価格について、本件企業団は、地元住民からの強い要望(本件企業団が有効面積一坪当たり八万円以上で買い取らないなら、用地の買収に応じないとの態度であった。)であること、安定した給水を行うために本件浄水場の建設を急ぐ必要がある(本件企業団は、できれば昭和六三年一〇月までには用地造成のうえ引渡しを受けたいと要望していた。)ことから、有効面積一坪当たり八万円の単価で被告公社から買い取ることを了解し(本件合意)、また周辺道路整備についても了解し、昭和六二年九月被告公社に対し、本件合意を前提に本件浄水場用地の取得及び造成を委託した。

被告公社は、右坪八万円の買取価格から、周辺道路整備等の付帯工事を含めた工事費等の必要経費を控除した金額を用地取得に充てることとしたが、地元からは用地取得に充てる金額をできるだけ多くして欲しいとの要望もあり、被告公社が坪八万円を前提に計画した工事で賄えない付帯工事(周辺の道路整備等)が生じた場合には、鴨方町が負担することになった(鴨方町では地元の要望で急遽周辺の道路整備等の計画を立てていたが、被告公社としては鴨方町の右計画の実施予定等については見通しがたたなかった。)。

被告公社は地元住民との間で、昭和六二年九月ころから具体的な価格交渉に入り、同年一〇月中旬ころにはおよその買収価格の合意(山林は一坪当たり一万円程度、畑は一反当たり五〇〇万円程度、田は一坪当たり二万円程度)をした。

(二)  被告公社は、昭和六二年一〇月二六日、中電技術に惣良田地区の丈量測量及び立竹木調査を委託した。委託費は丈量測量が総額一一〇万円、立竹木調査は総額八五万円であるが、当時既に惣良田地区の測量図をもとに本件浄水場用地の位置は概略決定していた(その位置は、別紙図面2のア、イを結んだ線の西側である。)ため、中電技術が、本件浄水場用地分とそれ以外の分とに分けて委託費の内訳を算出しており、本件浄水場用地分は、丈量測量費七〇万円、立竹木調査費四五万円である。

被告公社は、同年一二月二五日、中電技術に対し、本件浄水場の用地造成実施設計を委託した(委託費九九七万円)。被告公社は、経費を節約するため、本件浄水場用地の造成に伴って生じる残土を他所に運び出さず、隣地に捨てる計画をしており、右実施設計の委託内容は、本件浄水場敷地(別紙図面2のア、イを結んだ線の西側三・四ヘクタール)造成の実施設計(整地設計、道路設計、排水設計等)及び残土処理場(右ア、イ線より東側部分四・三ヘクタール)の設計である。

被告公社は、昭和六三年一月、中電技術に二号、四号、五号道路の測量を委託した(委託費は八六万五〇〇〇円)。二号道路の測量は、別紙図面3の一工区内の二号道路(水路を含む。)部分(二工区内の二号道路の測量は、昭和六三年一二月二五日付用地造成実施設計に含まれている。)の測量であり、四号道路の測量は、別紙図面3の一工区内の四号道路(水路を含む。)部分(二工区内の四号道路の測量は、昭和六三年一二月二五日付用地造成実施設計に含まれている。)の測量である。

二号道路の右測量は、地元住民からの要望であった部落から本件浄水場用地に続く道路設計や、また山林造成にともなう排水対策としての水路設計のためである。

四号道路の右測量は、土砂、雨水の流出対策(山林を造成したり残土捨場に土砂を捨てると、土砂、雨水の流出量が増える。)として、二号沈砂池から北側への排水路の改良や、二号沈砂池の土砂を回収するため車両通行可能な道路を造成するためである。

四号道路は、後記の第一次変更工事がされるまでは、残土処理場への道路として利用されていた。現在は、一部つながっていない部分があり、利用できないが、将来的には五号道路に接続する予定である。

五号道路の測量は、前記用地造成実施設計時に地元から道路の幅員を三メートルから四メートルにして欲しいとの要望があり、また里庄町からも同様の要望があったことから、幅員を増加するための測量である。

被告公社は、昭和六三年一月一四日、中電技術に本件浄水場用地の地質調査業務を委託した(委託費七六万五〇〇〇円)。本件浄水場予定地内で一部湧水があり、構造物の関係で使用できない場所が出てきたので、二か所ボーリング調査を実施した。

(三)  被告公社は、昭和六三年三月三一日、アイサワ工業株式会社(以下「アイサワ工業」という。)に対し、本件浄水場用地造成工事を発注した(請負金額一億八九〇〇万円。以下、右契約にかかる工事を「起工工事」という。)。右起工工事では、別紙図面3の「浄水場」の部分に本件浄水場用地を造成し、右図面中の「残土処理場」に、本件浄水場用地から出た残土を捨てる予定(同図面中の「運動公園予定地」は将来町が造成工事をするので、被告公社では造成しない。)であった。

被告公社は、同年六月二八日、株式会社高橋組(以下「高橋組」という。)に二号道路の改良工事(請負金額は一四三〇万円)を、浅口建設株式会社(以下「浅口建設」という。)に四号道路の改良工事(請負代金一五七五万円)を、それぞれ発注した。

(四)  鴨方町は、昭和六三年六月、惣良田地区に運動公園を造る計画を具体化し、昭和六三年度に別紙図面3の「運動場」の位置に運動場造成工事を実施することとした。鴨方町は、当初、右図面中の残土処理場の部分は、平成元年度以降の年度の工事とする予定であったが、その後運動場と同一年度で工事を実施することとなり、鴨方町の直営工事とするか被告公社に工事を委託するか検討し、当時被告公社が残土処理場として工事していたことから、右造成工事を被告公社に依頼することとした。

被告公社は、同年七月、鴨方町から、別紙図面3の「残土処理場」の部分の造成を依頼された。

(五)  被告公社は、昭和六三年九月一四日、アイサワ工業に対し、鴨方町からの右依頼に基づき、起工工事の変更工事(以下「第一次変更工事」という。)を発注した。請負代金増加額は六〇四二万円であるが、本件企業団が負担した本件浄水場用地分は、七六七万二〇〇〇円である。第一次変更工事では、別紙図面4のとおり、残土処理場を広場にするため、整地部分が広がった。第一次変更工事中、本件企業団は費用を負担した工事は、一号道路北端出口部分の擁壁追加工事(一号道路の運動場内に延長された部分は負担していない。)、三号道路及び五号道路の幅員拡張工事(三メートルから四メートル)である。

被告公社は、同年一〇月二一日、高橋組に対し二号道路改良工事(請負金額一八八万三〇〇〇円)を、浅口建設に対し四号道路改良工事(請負金額三九二万三〇〇〇円)を、それぞれ発注した。二号道路改良工事は、二号道路に沿って流れている寄迫川の改修とそれに合わせた二号道路の改良工事である。四号道路改良工事は、二号沈砂池とその排水及び沈砂池に至る道路の改良工事である。

被告公社は、平成元年二月一日、アイサワ工業に対し、第一次変更工事の変更工事(以下「第二次変更工事」という。)を発注した。起工工事、第一次変更工事では、正土(岩ではない通常の土)を前提にしていたが、工事の進行に伴い、軟岩、硬岩が出てきて、民家が近い関係で爆破できず費用のかかる岩の掘削をする必要が出てきたため、第二次変更工事をすることになった。請負金額は四二〇二万七〇〇〇円であるが、本件企業団が負担した本件浄水場用地分は四〇六万一〇〇〇円である。

被告公社は、平成二年一月九日、横山建設株式会社に対し三号道路法面整備工事(請負代金二〇〇万八五〇〇円)を発注した。右工事は、当初アイサワ工業が造成した三号道路の湧水が非常に多いための設計変更に基づく工事である。

被告公社は、株式会社中嶋組に対し、右同日寄迫川改良工事(請負金額四〇六万八五〇〇円)を、同年二月一九日右工事の変更工事(請負金額一一一万二四〇〇円)を発注した。寄迫川改良工事は、寄迫川の道路下の暗渠部の改良工事であり、右変更工事は、寄迫川が下流の惣良田下流に流れ込む部分の改良工事である。

(六)  被告公社は、昭和六二年一一月ころから惣良田地区の土地買収を行い、平成二年三月ころ終了した。買収面積七万六〇三〇・六四平方メートル(寄付を受けた二八三・一七平方メートルを含む。)、買収費用は三億三二〇〇万六〇六八円であるが、このうち、本件企業団が負担する本件浄水場用地分は面積三万三八四〇・一〇平方メートル(寄付を受けた二八三・一七平方メートルを含む。)、金額一億四五八六万八四三二円である。

右本件浄水場用地分三万三八四〇・一〇平方メートルと本件売却地一万八〇七六・三八平方メートルとの差一万五七六三・七二平方メートルは、本件浄水場の周囲の道路、水路、法面、擁壁(本件浄水場の維持、管理に必要なものである。)であるが、鴨方町が右土地の所有権を取得し、その維持、管理をすることになっている。

被告公社は、右買収に際し、一部の土地所有者に対し、立竹木等の補償費を支払ったが、本件企業団が負担する本件浄水場用地分は七一七万六九七一円である。

(七)  被告公社は、「昭和六三年度道路局所管補助金等交付申請について」と題する通達(昭和六三年四月一日建設省道総発第一三二号)に基づき本件企業団と協議のうえ、人件費等の諸経費を一七八二万円とした。

被告公社は、地元から要望のあった惣良田下池浚渫工事につき、本件浄水場用地造成のため土砂が右池に流出したことから、右浚渫工事の地元負担金五〇万円を負担した。

被告公社は、中国銀行鴨方支店からの借入金で本件浄水場造成工事を実施したが、右借入金の利息八〇五万六九一六円を負担した。

(八)  本件企業団は、昭和六三年一二月一〇日、被告公社との間で、本件合意に基づき、本件売却地(面積一万八〇七六・三八平方メートル)を代金四億三七四四万八〇〇〇円(本件売却代金、一平方メートル当たり二万四二〇〇円)で買取る売買契約を締結し、同月二六日、右代金を被告公社に支払った。

2  右に認定した、本件売却額は、当時の地元住民からの強い要望や、本件浄水場を早急に建設する必要性が高かった状況のもとでの本件合意に基づくものであり、本件売却額を原価的に検討すると、本件浄水場用地分として取得された三万三八四〇・一〇平方メートルの土地や前記1(一)ないし(五)で認定した各種の業務委託や工事は、本件浄水場の建設、維持、管理にとって、物理的に必要であるか、地元との了解事項を遵守し本件浄水場建設を実現するために必要であったこと、右必要経費の合計額は本件売却代金にほぼ相当する金額であること、さらに、本件浄水場周辺の道路、水路、擁壁等の維持、管理は、本件浄水場の維持、管理に必要であるから、本来、本件企業団は、右道路、水路、擁壁等の維持、管理費の少なくとも一部は負担すべきところ、本件においては鴨方町の負担において右道路等を維持、管理することになっているから、本件企業団は、右費用の負担を免れていることになることからみると、本件売却額は、本件企業団にとって不当であったとはいえない。

原告らは、惣良田地区は一体として開発されたのだから、右開発区域に共通した費用については、本件浄水場用地、運動場、広場の各有効面積割合で按分すべきであると主張する。確かに、結果的にみた場合、共益的な費用については面積割合による比例的な計算方法は、それ自体適切な方法といえる。しかし、右に検討した、本件売却額はそもそも原価計算方法によるものではなく本件合意に基づくこと、被告公社が実施した委託業務や工事はいずれも本件浄水場用地造成にとって必要であったこと、本件企業団は本件浄水場周辺の道路、擁壁等の管理費を免除されていることからすると、本件売却額は、本件企業団が本件売買契約を締結する際に認められた合理的な裁量を逸脱しているとはいえず、本件売却額の支払いは本件企業団にとって違法なものとはいえない。

四  以上によれば、その余の請求原因について判断するまでもなく原告らの請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田亮一 裁判官 吉波佳希 遠藤邦彦)

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